倍賞千恵子×木村拓哉『TOKYOタクシー』感想
前情報無しで鑑賞
(ネタバレを含みます)
観てきました。原作の「パリタクシー」は未鑑賞で、前情報ほぼなく行ってきました。
まず、私には大前提、木村拓哉さん=ヒーローという図式が頭に刷り込まれていることを実感しました。
普通のお父さんとするには格好良すぎると思ってしまうけども、立派な肩書のない役ってとても新鮮でした。
お金がない、地位もない。底から自分で這い上がるわけでもない。
木村拓哉さんに否応なく求めてしまうサクセスストーリーとは一味違います。
笹野高史さんが欠かせない
そして、この前の週に観た「港のひかり」から引き続き笹野高史さんが欠かせない世話焼きポジションでまた登場。
この人がいなかったら出会っていなかった、すれ違っていた、そんな繊細な縁を結んでくれるキーマンの役が恐ろしくお似合いです。
欲を言えば
欲を言えばもっとくたびれた木村さんの姿も観てみたいと思いました。生活に疲れた顔とか、そういう哀愁も魅力的な気がする。
どうしてタクシー運転手になったのか、スピンオフが観たい。
倍賞千恵子さん(すみれ役)
倍賞千恵子さん(すみれ役)は初登場シーンからお美しく、髪型がかっこよくて、自分でセットしてるのかな?なんて思っていたらネイリストであると明かされとても納得しました。
あのネイル、すっごくキレイだったなあ。
真似したい上品なアートネイルだった。
黒いハイネックもお似合いで。
ジブリ映画『ハウルの動く城』のソフィーとハウルが実写で初共演
2004 年公開のスタジオジブリ映画『ハウルの動く城』でソフィーとハウルとして共演していたお二人。
それ故に、映画の中では初めて出会った関係性であっても、まるで何か運命が引き寄せたかのような奥行きを感じさせるのは、キャスティングマジックでもある。
蒼井優さん
そして倍賞千恵子さんの若い頃を演じた蒼井優さん。
お芝居に本当に引き込まれる。
その時代に生きていた人に見えてくるし、
20才にもちゃんとみえてしまう。
昭和の髪型やファッションもすごく似合うし、
その感じがフラガールを彷彿とさせました。
そしてその息子役が、あんぱんでたかしの子供時代を演じた木村 優来(きむら ゆら)君。
あの大きな黒目のなかにたたえる悲しみの色が
子供ながらに現実と戦っている感じがしてすごく良かった。
そして、この物語で一番度肝を抜かれたシーン。
息子への虐待が発覚し、夫に復讐するすみれさん。
熱々に熱した油(?)をなんと夫の急所めがけて鍋ごとザバーン!
よく助かったなと思いました。
でもどうして犯行の前に、夫に体を許したんだろう。
睡眠薬で眠らせるなら、もうそんなことしなくてもいいのに。
これがお前の人生で最後の営みだぞと、心で罵っていたのかな。
すみれさんの人生
そんなわけで罪に服することになったすみれさん。
獄中で息子の訃報が届く。
自分ももう死にたかった。だけど刑務所というところは簡単に死なせてくれない。
そんなふうに自分の人生を終わらせたかったすみれさんだから、もうこの世に未練はなく、あとは動けるうちに施設に入ってそのときを待つというタイミングでであったタクシー運転手が浩二だった。
東京で出会った二人
人生の終わりを見据えて、名残惜しい東京の景色に複雑な想いを抱えながらも別れを告げようとするすみれさん。
中学生の娘が音大に進学を希望し、応援しているものの金銭面で負担が重くのしかかり、実姉に懇願するも叶わず、どうしたものかと悶々とする浩二。
これからを生きていくため、さらに娘の「これから」しかない人生のため、未来のために奮闘している父親。
この二人の人生が交差したたった1日の物語。
人生の終わりを
すみれさんには心臓の持病があり、もう長くないとわかっていた。長くないなら最後まで外の世界で自由にできたらいいのに、などと思ってしまうが、
高齢の一人暮らし。
最後の時を、周りに迷惑かけぬよう、と決断したのだろう。
ネイリストで一代を築き、すみれには大金が残っていた。
相続する肉親はもういない。
そんな時に知り合った浩二。
最後に贈った一億円の小切手は、いつから渡すと決めていたのだろう。
もう生きていなくていいと思っていたすみれさんに
浩二は言ってくれた。
「すみれさんは生きてて良かったんだ」
その言葉が、人生の終盤にさしかかったすみれの心をどれだけ救ってくれただろう。
それはすみれさん一人の人生の重さごと、優しくあたたかく救ってくれた瞬間だった。
だからこそ、代わりにこの人を、その家族を助けたい、そう思ったのだろう。
人生の別れに後悔は残るもの
映画の終盤、すみれさんをやっと施設へと送り届けた浩二。
さんざん施設の人を待たせてしまっている。これからは一人気ままな時間で動けるわけではなく、集団生活を送ることになる。
今日は横浜のホテルに泊まって明日入所したいというすみれの最後の願を、浩二は跳ねのける。
施設に入る人が、本当にそこに足を踏み入れるとき、どんなに怖いだろう。寂しいだろう。自由に海外まで生き自営をし、生きてきたすみれさんならなおさら。
それに加えて今日一日のドライブが楽しすぎて、今日を寂しさで終わらせたくないと思ってしまったのかもしれない。
けれども、「また必ず会いに来る」と話して見送る浩二。
そして、結局それがすみれさんに会えた最後の時間になってしまった。
浩二を襲う後悔。
どうして最後のわがままを聞いてあげなかったのだろう。
大切な人を見送った人なら、誰もが経験すると思う。
もっとこうしてあげられたらよかった。
どうしてもっと会いにいかなかったんだろう。もっと話さなかったんだろう。
なぜなら、それが最後なんて思っていないから。
また会えると思ってしまうし願ってしまうから。
もし後悔を残さないようにということを目標にするのなら、毎度毎度「これが最後かも」「今日で会えなくなるかも」「この人はもう亡くなってしまうかも」などという気持ちに支配されてしまうだろう。
けれども日常を生きる私たちは、これからを、この日々の続きを願う。
生きていくことを前提に生きていく。
だからこそ、どこで終わるかわからない
誰かとの日々の終わりに後悔が残るのは当然のことなのだ。
大満足で終わらせないことのやさしさ
この映画の中で、すみれさんの人生を大満足で終わらせなかったことが、山田洋次監督のやさしさでもあると思う。
人生には、やり残すことがあるし、やり残したと思うほどに何かを願って生きたことが尊いのだと思う。
やってあげたかった後悔を沢山の人が持っているから、皆このときの浩二の気持ちを思うとチクリと胸が痛むだろう。
その気持ちの共有をくれることはとてもやさしいことだ。
ともすると自分を責めてしまいがちな感情に対して、自分ひとりじゃない。
後悔は残るものなのだ、それほどまでに大切な人に自分は出会えたんだと思わせてくれる。
素晴らしいメッセージになっていると思う。
余談
余談だが、今年あるコンサートを鑑賞した際、隣の席に70代くらいの女性がいらした。
コンサートの前半は、お互い一人参戦だったこともあり静かに聴き入っていた。
20分の休憩があり、その日の占いが「知らない人に話しかけてみよう」だった私は、普段なら押し黙っているところ勇気を出して話しかけてみた。
このアーティストさんのライブはよくいらっしゃるんですか?と。
そうすると、ライブは初めてだけど、好きでずっと曲を聞いていたとのこと。地元の方で、(私は遠方から参戦)
今年から施設に入ったことを教えてくれた。
全身すごくおしゃれで、会話も快活で、こんなに元気なのにもう?と正直思い率直にうかがったけれども、
「元気に動けるうちにこういうことは決めないとね」とおっしゃった。
私も、まだまだかも知れないけれどいつか来るその決断のことをはじめてちゃんと考えるきっかけになった。
親戚が施設入っても、自分にはすごく先のことと思っていたのに。
同じアーティストを好きな同士だから
より近い人に感じたのかも知れない。
今日は外出許可をもらっていて、
施設の人にこんなお土産を買ったんだとか、
私の地元について
「空がきれいな街で大好き」と言ってくれたこと。
今でもすごく覚えていて、よく思い出す。
沢山おしゃべりした私たちは、休憩の後、アーティストさんの小話に沢山声を出して笑ったし、前半より大きく拍手をした。
一緒に観ているという感覚があたたかかった。
帰り際、「ありがとう。今日のこと忘れないと思うわ」都いってくれた。
また来年も同じ街で会えるといいな。
彼女がすんでいる駅に用事があり降り立ったとき、
この街の何処かであの歌を聞いているのかな、なんて思って嬉しかった。
そんな思いが、この映画の途中幾度となく思い出された。
思いがけない出会いに感謝する日がある。
2度と会えなくてもずっと大事にとってある思い出もある。
いつか、この人を助けたいと思ったとき手渡せるように
今日から1億円貯めよう。
そんなことを思った
TOKYOタクシー。
ちなみに
※ちなみにそのコンサートのアーティストとは、山崎育三郎さんです。
山崎さんがラジオで人のどこを最初にみますか?という質問に「姿勢」生き方が出るから、とおっしゃっていて
木村拓哉さんもそうおっしゃっていたということを教えて下さいました。
それから姿勢に気をつけるようになりました。
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