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ケーキの歴史物語(お菓子の図書館)甘くてふわふわの魔法づくり。ケーキという概念を食べる特別な食べ物。

ノンフィクション

「ケーキの歴史物語」人はなぜケーキに魅せられるのか?

 

ケーキはただの食品ではない。

限りなく思い出と結びついている。

食べているのは、甘いもの?

ふわふわしたもの?

フルーツが乗ったもの?

つやつやのチョコレートでコーティングしたもの?

 

「ケーキ」と言って思い浮かべるその姿かたちを

せーので人と合わせるのは難しいだろう。

 

ホテルメイドの緻密なケーキ。

地元のお菓子屋さんの可愛いらしいケーキ。

家庭のキッチンで作られる手作りのホームケーキ。

 

コンビニでも売っているし、どこでも買える。

けれども、毎日食べるという人は多くはないだろう。

 

ケーキに潜む“特別”の概念。

お誕生会。クリスマス。結婚式。記念日。

 

幸福感とともに味わう甘美な味と夢のような食感を

「ケーキ」として記憶する。

「ケーキ」を食べない普通の日があるから

よりその特別さは際立つのだ。

 

その「ケーキ」がどうやって人類史に根付いてきたのか。

この本はそれを紐解いていくとともに

「ケーキ」とは私達にとって一体何なのか。

その本質に迫る。

“ケーキ”という象徴。概念を食べるということ

一般的に「ケーキ」とは

丸くて、平たく、ふわふわしている。

クリームが塗られている。

フルーツやチョコレートで飾られる。

 

栄養を摂る食品という存在ではない。

食べる前の「見る・眺める」という段階が一番重要視される。

 

甘いお菓子なら他にいくらでもある。

パンだって肉まんだって膨らんでいる。

けどケーキほどは飾られていない。

 

ケーキの丸い形には、物理的にも四角いと四隅から焦げてしまうという

理由もあるが、丸いことに大きな意味がある。

満月のように、欠けていないものの象徴。

人に安心感を与える形。

 

さらにホールケーキには、

それを親しい人たちと切り分け、

この幸せを分け合って食べるという

イベント性も加わる。

 

ケーキがある日は特別だ。

晴れの日のシンボルでもある。

 

この特別な食べ物を口に運ぶ時、

私は特別な存在になる。

そんな魔法を有するものがケーキだ。

ケーキは儀式から生まれた徹底して象徴的な食べ物

スイスの新石器時代の遺跡で見つかったのが

最初期のケーキ。

 

今でゆうビスケットやクラッカーのような硬さのある平らな円盤状のものだった。

 

エジプトでも、神への供え物として使われていた様子が碑に描かれている。

その後紀元前の古代ローマでは種類も豊富になっている。

 

穀物、牛乳、木の実、蜂蜜、香辛料と、

貴重なものを込めて作るこの食べ物は

一般的にと言うよりはやはり、ここぞのときに

作られる儀式的な食べ物だった。

泡立て革命。膨らむ夢。

膨らます技術。

これが革命であった。

 

泡立てた卵白の膨張力の発見だ。

 

小枝を束ねたもので泡立てていた頃は

どれほどの労力だっただろうか。

 

その後フォークが発明され、

泡だて器、電動泡だて器、と

この泡立ての進化は涙ぐましいものがある。

 

人類が文明の利器を手に入れるまで、

泡立ての仕事はムキムキの男性による筋肉仕事であった。

ケーキとパンの分かれ道

現代ケーキのルーツはパンだ。

酵母によって膨らます技術がまず先にできた。

 

フランス、ドイツ、オーストリア、イタリア生まれのケーキには

イーストで膨らませたものが多いそう。

イギリスではそれはケーキに含まないというルールがある。

 

18世紀、オーブンの登場と十分な卵を入れることで酵母に頼らず膨らますことが出来るという発見により、一気に現代のケーキへと加速する。

 

 

 

イギリスとフランス。ケーキの概念の決定的な違い。

日本に住む私から見ると、

欧米のケーキ文化と一括りにしてしまいそうだがそうではない。

 

例えば、フランスでケーキと言えば

それは一流のプロのケーキ職人が作ったものを指す。

 

マリー・アントワネットに象徴されるように、

宮殿内に仕える料理人達、とりわけケーキの専門職たちが

こぞって、造形的にもあっと驚く華美な見目麗しい

上流階級にふさわしいものを、しのぎを削って作り上げていったことが根底にある。

その一流の職人たちが、革命後

それぞれに街でケーキショップを開店していったことから、

ケーキとは、一流の店で買うものという習慣が今日まで色褪せずある。

 

対してイギリスでのケーキというと

ホームメイドのケーキという意味合いが大きい。

イギリスのホームベーキングという理想

エリザベス朝の時代から

家政管理は、男性執事の手から上流婦人たる主婦の手へと移る。

 

各家庭にオーブンがあるというのが主流になり

更にアフタヌーンティーの習慣の普及がそれを後押しする。

 

お茶会でホストの主婦がどんなケーキを焼いてもてなすのか。

それが上流階級の見栄の張り合いでもあった。

他人の羨望を集めるという目的のもとに

各家庭オリジナルの伝統レシピは練り上げられていく。

 

イギリスでは、ケーキそのものの味以上に

アフタヌーンティーという時間を設けることが非常に重要であり

戦時中であろうとも、乏しい材料で味に満足できなくとも

その形を保ち続けたという。

アメリカのケーキとは?

「ステラおばさんのクッキー」に代表されるように

レシピを作った人の名前が冠されることが

アメリカのホームベーキング文化の象徴だ。

さらに、簡単にパッとできることも重要視される。

 

アメリカの菓子作りの歴史で大変興味深かったのが

ケーキミックスにまつわるエピソードだ。

 

当初ケーキに必要な材料をすべて含み、あとは水を混ぜるだけという商品だったがそれはさほど売れなかった。

 

そこに製菓会社はどんな工夫をしたのか。

 

なんと、全部入りから卵成分を抜いて、自分で卵を加えるようにしたのだ。

一手間増えている。

 

けれどもそこに「ケーキとは何か」の問いに答える秘密が隠れているように思う。

 

卵を自分で加えるという一手間は、それは「自分が」(主に理想の母である私が)作った私のケーキであるという意味を与える。

水を加えただけでは、そのケーキと自分との関係性が弱かったのだ。

 

手間を掛けることとは、愛情をそそぐこと。

そこを削ぎ落としてしまうと、ケーキに宿るはずの魔法が抜けてしまう。

 

けれども、家庭の主婦は忙しい。沢山の家事をこなしつつ作るケーキなのだから、楽できるところはしたい。

そのちょうどいいポイントが、現在の日本のホットケーキミックスにも通じるように、「水(または牛乳)と卵は自分でいれる」という工程なのだ。

ケーキ作りは魔法づくり

大好きなアメリカのドラマ

「まほうのレシピ」では、

屋根裏に眠っていた不思議なレシピノートで

お菓子作りをすることで、色んな魔法が使えるようになる。

第一話では

3人の女の子が、子供だけの手で

キッチンで魔法のスパイスを使い、

決められた材料を、きっちり計った分量、

定められた手順でケーキを作り上げていく過程に

魔法が宿っていく様子がファンタジックに演出されていく。

なぜこの子達が魔法を使えるようになるのか、そこに疑いはない。

実験のような、魔術のようなケーキ作りの工程を

踏んでいくことはそれだけで儀式的なのだ。

「ケーキ」という名前に宿る魔力

現在ドラマ配信もされ人気のBL漫画「オールドファッションカップケーキ」も

このタイトルにガラスのショーケースの向こう側へと手を伸ばしてしまう魅力がある。

この「カップケーキ」というケーキは

おばあちゃんの作るお菓子として、人気が下火になった時代があったものの、

ニューヨークでカラフルなデコレーションをされたカップケーキが流行し、(ドラマ「セックス・アンド・ザ・シティ」でキャリーが行列に並んだことで一躍大ヒット)

 

 
 
 
 
 
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SNS映えする上に、

忙しい現代人のためのパッと買って持ち歩けるスイーツ、

簡単に形が崩れない。

作る工程も簡単でホームメイドもしやすい。

さらには韓国カップケーキというかたちで

日本へも再度流入し

完全に若者のスイーツへと生まれ変わった。

吾輩は猫である。名前はまだない。どこで生れたか頓と見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。

そんな風にケーキの歴史は現在進行系で紡がれている。

流行は変わるし、健康志向から「甘い毒」と称されるケーキも肩身が狭くなるのかもしれない。

けれど、ケーキでしか見られない夢がある。

ショーケースの中から、こっちを見て!と

誘惑してくる可愛らしくセクシーな姿。

甘くてふわふわしたこの食べ物を皿に切り分けてもらえる喜び。

うっとりするような魅惑の味に包まれるひととき。

この“特別”は今だけじゃなく

昔から人間が繰り返し、繋いできた口福。

あなたには、どんな特別なケーキがありますか?

ケーキの歴史物語/ニコラ・ハンブル/堤理華

ニコラ・ハンブル 著

1964年シンガポール生まれ。イギリス各地で幼少期を過ごし、ドイツにも数年間滞在。現在はロンドンのローハンプトン大学英文学教授。19~20世紀の文学、文化史を専門とし、食物史に造詣が深い。著書多数。食物史の分野の著書としてはCulinary Pleasures:Cook Books and the Transformation of British Food(Faber & Faber,2005)が英国フードライター協会の2006年度「ベスト・フード・ブック賞」となったほか、複数の賞を受賞した

堤理華 訳

神奈川県生まれ。金沢医科大学卒業。麻酔科医、翻訳家、現同大学看護学部非常勤講師(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

出版:原書房

目次

序章 特別な日を飾るケーキ
ケーキとは不思議なもの
ケーキとは何だろう
ケーキと裁判

第1章 歴史とケーキ
最初のケーキ
近代以前のケーキ
現代ケーキのルーツ――パン
ケーキとパンの「奇妙」な歴史
パン以外の系列のケーキ――ポリッジ、プディング、パンケーキ
卵白の発見
輪型、オーブン、そして大量の卵
ふわふわのケーキ、誕生。
砂糖とアイシング

第2章 世界のケーキ
フランスケーキの誕生
カレームとソイヤーの超絶ケーキ
フランスケーキの神髄
オーストリア=ハンガリーのケーキ
ヨーロッパ各地のケーキ
世界のケーキ
名作ケーキの誕生
ザッハートルテと法廷論争
ケーキと文学
ケーキと名前

第3章 家庭で作るケーキの文化
ホームベイキングという理想――エリザベス朝時代
フランスのケーキとイギリスのケーキはなぜ違うのか
イギリスのケーキ
フランスのケーキ
アメリカのケーキと開拓者魂――「大草原の小さな家」
ケーキミックスの成功

第4章 ケーキと儀式、その象徴性
なぜケーキは丸いのか?
季節と祭り 儀式と祝宴
酔いどれ騒ぎから静けさへ
ケーキと風刺――ヴィクトリア朝時代
クリスマスケーキの登場
ウェディングケーキ その1――この不思議なもの
ウェディングケーキ その2――大きく! 高く!
ウェディングケーキ その3――つまりこれは何か?
ウェディングケーキ その4――ところ変われば

第5章 文学とケーキ
プルースト『失われた時を求めて』
ディケンズ『大いなる遺産』
「食べるケーキ」と「食べないケーキ」
悦びと快楽
フローベール『ボヴァリー夫人』
ジェイン・オースティン『エマ』
ギャスケル『女だけの町(クランフォード)』
ルイス・キャロル『不思議の国のアリス』
マンスフィールド『園遊会』
北米の文学とケーキ
モンゴメリ『赤毛のアン』『アンの幸福』
ウェルティ『デルタの結婚式』

第6章 ポストモダンのケーキ
カップケーキ その1――マーサ・スチュアート
カップケーキ その2――マグノリア・ベーカリー
カップケーキ その3――ナイジェラ・ローソン
ケーキの未来

謝辞
訳者あとがき
写真ならびに図版への謝辞
参考文献
レシピ集