「それいけ!アンパンマン」がTVアニメになり
国民的大ヒットとなった時、実に69歳。
ご自身を持って大器晩成だというやなせたかしさんの自伝的エッセイ。
まえがきには、やなせ先生作詞の「アンパンマンのマーチ」の歌詞が載っている。
漫画家であるとともに、「詩」を書くことを愛していたやなせ先生。
なんのために 生まれて
なにをして 生きるのか
こたえられないなんて
そんなのはいやだ!
出典「アンパンマンのマーチ」作詞:やなせたかし 作曲:三木たかし
幼稚園で幼児たちが奪い合うほど人気の絵本が、何度も企画の没を経て
粘り続けた日テレスタッフの熱意によってアニメ化に漕ぎ着ける。
やなせ先生曰く、もしもプロの作詞家に頼んでいたらこういう歌詞にはならなかったと。
かわいいアンパンマンというイメージの、子供に迎合したものができただろうと。
やなせ先生は子供を決して子ども扱いせずに、一人の人格として尊重する。
わかるだろうことだけを与えるのではなく、大人からまず本気の気持ちをみせる。それに対して子供はちゃんと反応する。
細部が理解できなくても、気持ちはちゃんと受け取る。そんな風に子どもたちとのコミュニケーションを信頼しているやなせ先生。
ご自身、戦争での中国出兵を経験し、お父様も、弟さんも戦地で亡くされる。
戦時下を生き延び、この生き残った命をなんのために生きるのか。
もっと生きたかっただろう家族の命に対して、
自分はどう生きて行くのか。
どんな瞬間も本気で、創作を愛し、創作から生まれる様々な人々との交流を愛したやなせ先生の、
あたたかくもときに厳しく、現代のクリエイターは本当に面白いものを生み出しているか。
消費されていないか。迎合ばかりしていないか。
「なにをして生きるのか」答えられる大人であるのか。
そんな問いかけが聞こえてきます。
アンパンマンを深く知りたい人はもちろん、
全クリエイター必読と言える、エンターテイメントに縣ける情熱と
その本気の純度。
命そのものの熱さを感じるエッセイです。