絶対王者羽生結弦の笑顔が最高の輝きを見せる日は、来る。
羽生結弦を持ってしても、毎回の大会をベストに調整することは難しい。
4年ぶりに帰ってきた全日本。
「自分の頭の中にあるベストな演技」とはいかなかったが
最後の最後のスピンには意地が見えた。
試合後からすぐに始まる、次の自分への問い直し。
その悔しさが全面にでていたインタビュー。
次は世界選手権。
ここから王者がどう再び笑うのか。
その日を心待ちにしたい。
以下は、9月に執筆した記事です。
絶対王者羽生結弦の2019年の物語が今まさに我々の前でスタートした。
今年の24時間テレビで、北海道胆振東部地震の被災地復興への願いを込めて
清塚信也さんのピアノの音色
そして厚真町町民吹奏楽団の演奏に乗せ
松任谷由実さんとともに
「春よ、来い」にのせて夢のアイスショーを開催した姿が記憶に新しい。
そんな羽生結弦は
日本時間2019年9月14日カナダ・オンタリオ州オークビルにて行われた
「フィギュアスケート オータムクラシック」
男子SP(ショートプログラム)「秋によせて」において
SP98・38点で首位発進。
続いて15日、 濃い紫色の新衣装で挑んだフリーでは
憧れの存在エフゲニー・プルシェンコ(ロシア)の代表的なプログラム
「ニジンスキーに捧ぐ」をモチーフにした
「Origin」で
180・67点でトップとなり、合計279・05点で今季初戦を優勝で飾った。
ソチ、平昌と五輪二連覇を達成した、
絶対王者羽生結弦の2019年の物語が今まさに我々の前でスタートしたのだ。
こちらも読んで見る→羽生結弦が絶対王者になるまでのメンタルコントロールが鮮明に書かれた本「羽生結弦王者のメソッド」を読む(書評ブログ)
2014年のソチ・オリンピック後の羽生結弦の物語へ・・・
この本は
ソチオリンピックの金メダリストとなった彼の
そのまた4年後ピョンチャンオリンピックに向かうまでの怒涛の日々が語られている。
金メダリストとしての世界中のオーディエンスからの期待。
自分自身への期待。
計り知れないプレッシャーの中での
アクシデント、 不調。
それを乗り越え
再びオリンピックへと立ち向かう。
この本はそんな羽生結弦のソチからピョンチャンまでの重要な4年間を
本人の言葉で語り尽くしたインタビュー集である。
その中から、彼の本当の強さとは何なのか、
何故オリンピック二連覇という偉業を成し遂げることが出来たのか、紐解いていきたい。
この記事について
本記事は、要約・抜粋ではなく
この本を読む体験の中で考えを巡らせたこと
自分の中で噛み砕いた要素なので
実際の知識は是非書籍から純粋に獲得していただきたいと思います。
(書評としていますが、ほぼ感想文です。)
「追われる者」に変わっていく中でのメンタルコントロール
2014年、ソチオリンピックでの金メダル。
確実に「追われる」立場へと環境が変化する。
「絶対王者」と呼ぶに相応しい彼だが
周りの選手たち(パトリック・チャン選手やデニス・テン選手、ハビエル・フェルナンデス選手など)は、
やはり強力なライバルであることに変わりはなく
常に意識し競い合う存在である。
誰かの背中を目指し追いかけるという方が実はパワーがだしやすかったりもする。
けれども、彼はもう立ってしまった。
世界の頂点に。
今まで追いかけていた背中は、もう目の前にはない。
自転車競技や、パシュートなどの競技がそうであるように
二番手以降に着く者は、先頭を風よけにして体力を温存することができる。
しかし、いざ先頭にたった者の前には風よけなどない。
すべてを自分で受けるしかない。
そんな風圧に耐え、果敢に己の技術を磨き続ける。
五輪の覇者。世界王者。その称号と同時に
彼の「絶対王者」としての時に孤独な戦いが幕を開けた。
こちらも読んでみる→浅田真央とWANIMAの「やってみよう」がなぜハマるのか?24時間テレビで少年少女たちと共有した想い~浅田真央 そして、その瞬間へ~(書評ブログ)
チャレンジャーとチャンピオンの「2位」の意味の違い
一度も頂点に立ったことがなければ
競合ひしめくトップレベルの大会で2位、銀メダルを獲得することはむしろ誇らしいことだろう。
簡単に勝てるとは到底思えない、各国のスペシャリストが集結する大会の厳しさを思えば。
しかし、オリンピックのゴールドメダリスト。
世界選手権も制してきた羽生結弦にとっては
「1位になること」が最低ラインという、信じられない重圧がのしかかる。
オーディエンスの期待、スケート界での立ち位置、何より自分が自分に期待してしまう。
いままでだってそれが出来てきたから。
出来て当然。プラスアルファ自己最高得点を超えていく。
下位から少しずつ上ってきた「2位」と、
一度頂点に立ってからの「2位」では意味が全く違ってしまう。
人は、狙ったものが手に入らないことよりも
一度手にしたものが、失われると考えた方が、心理学的にもより喪失を感じやすい。
手に入れようと駆け上がる場面と
失いたくないと力む場面では
パフォーマンスの伸びにも差が出てくる。
そんな高みに辿り着いた羽生結弦には、王者にしかわからない新たな課題も生まれてくるのだ。
こちらも読んでみる→24時間テレビに思う~浅田真央の笑顔は何故こんなにも人々の心を救うのか?~ 浅田真央 さらなる高みへ 書評ブログ
王者の境地「ノーミス」に慣れてしまう。
ひとつのミスで、全てが崩れてしまう。
そんな時期があった。
なぜなら、「ノーミス」に慣れているから。
練習での成功を重ねれば重ねるほど、本番にも同じようにパフォーマンスを発揮できる。
ある領域まではそうなのだろう。
しかし、「毎回ノーミス」それが当たり前になった時に何が起こるか。
自分のミスにびっくりする。
自分のミスに慣れていない。
そのような現象は、その域に足を踏み入れた者にしかわからないであろうことで
その心境を正確に共感することができる人間はとても少ない気がする。
そういう意味では、本当に勝負の世界とは生き物のようなもので
その時その時の状況で答えはいくらでも変わり、成功する保障を100%にするのは困難だ。
「完璧」を目指しながらも
一方ではその「完璧を追い求める心」自体が自分を追い詰める時も出てくる。
「ノーミス」になるように練習し
されど本番でミスがでたとしても動じない。
そんな強靭なメンタルが必要となるのがトップスケーターの世界。
そういったメンタルの葛藤にひとつひとつ自分自身で向き合い乗り越えてきたのだ。
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怪我を乗り越え「笑顔で」スケートができる喜びを噛みしめた「Hope&Legacy」
「SEIMEI」では、激しくそれでいて感情を前面に出さずに粛々と執り行う儀式のような神々しさが際立っていた。
それとは対称的に
この「Hope&Legacy」というプログラムでは
→(久石譲「View of Silence」と「Asian Dream Song」を合わせた曲。)
左足甲の怪我により長くスケートが出来なかったもどかしい時期を乗り越えて
「スケートを滑れていることが楽しい!」といった
純粋な気持ちに立ち返り
その思いのままにオーディエンスへと笑顔を届けられるプログラムとなった。
一度怪我で休んだ体が高度なジャンプなどの正確な感覚を取り戻すのには、羽生結弦をもってしてでもかなりの苦労があった。
しかも平昌五輪プレシーズン。
精神的にも、焦り・落ち込み・悪夢に苛まれることもあった。
しかし、そんな時期に味わった感情さえも、糧にしてこの「Hope&Legacy」という曲の中
「心から笑って」滑ることが出来た。
「笑う」という効能は凄まじい。
ただでさえ、表情が強ばろうとも仕方のないような、最高難易度のプログラムを毎回繰り広げてきた。
しかし「笑顔」の持つ力は、オーディエンスへと伝わるだけでなく、
何よりも羽生結弦自身の過酷な日々を乗り越えてきた満身創痍の心をこそ癒やしたのではないか。
男子フィギュアは四回転新時代へと突入し、より激しい戦いが繰り広げられる中で、
「笑顔」は固くなった心を柔軟にし、狭まる視野までもを押し広げてくれるような力がある。
この心に宿る「余裕」こそが、次の自分が押し広げていく可能性の余白にもなるのだ。
そうして、五輪シーズンへ向けて
「ノーミス」の呪縛、「絶対王者」の角印からの重圧を、みごとに乗り越えていったように見えた。
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インタビューで初めて見せた涙。振り返れば1人で戦っているのではなかった。
ー自分で自分に重圧をかけてしまうという事ですか?
期待してしまうと思います。「勝てる」とはっきり知ったので、今まで以上にそれを望んでしまいます。そこが苦しいです。一方で、(やるべき事は)もっと難しくなってくるから、どうしようもなくなる。葛藤はあります。
「夢を生きる」 羽生結弦 より
1人で立つリンク。
ひとたび曲が始まれば大衆の見守る中、たった1人の戦いになる。
そんな重責を本当に「1人で」背負ってしまった時期もあった。
しかし今は違う。
常に支えてくれる母親の存在。
そのことを口にした時に、自身でも驚くように涙が溢れた。
常に信頼しているチームの仲間。
「誰にもわからない」孤独な王者の心境。
その重さはすでに1人の人間が抱えきれるキャパシティをとうに超えていた。
世界一の向こう側。まだ誰も見たことがない景色。
しかし抱えきれない重荷に弱くなるのではない。
周りを信頼し、預けることを身に着け乗り越えたのだ。
1人だ、と思っていた時に出る力と
チームで戦っていると気づいた時に出せる力。
その大きな違いがはっきりと現れる場所は・・・
そう、平昌五輪だ。
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「夢を生きる」その意味
子供の頃からオリンピックで金メダルを獲ることが夢だった。
そんな「夢」がいざ叶ったそのあとの物語。
誰もが、そこにたどり着くことに必死で
その先にどんな世界が待ち受けていようかとまでは想像もつかないもの。
自分が描いた「夢」その真っ只中の日々は
無邪気に思い描いていたものとはきっと違う。
そこに踏み込まなければ見えない苦しみ。
憧れ追いかけた「王者」の立つ場所から見える景色は
ずっと過酷なものだった。
それでも「夢を生きる」
そうタイトルに込めた。
言葉に並々ならぬこだわりのある羽生結弦だ。
「夢を叶える」でも「夢に向かって」でもない。
僕は今、夢の中を生きている!
苦しくても、何度壁が立ち塞がろうとも
夢の中を生きている。
その確信がある限り、彼の世界最高得点を幾度と塗り変えていくドラマティックな道は続いていく。
しかもその夢には続きがある。
子供の頃から、ただの金メダルでは物足りないと
オリンピックの二連覇までもを思い描いていた。
そして彼は向かう。
自分一人で見ていた夢から
沢山の人と一緒に見る夢へと物語を書き変えながら。
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作品情報
夢を生きる
著者 羽生 結弦
発売日 2018/03/02
出版社 中央公論新社
本体価格 1500円+税
インタビュー集とともに
様々な羽生結弦の表情を捉えた
カラー写真も豊富に収録。
2010年~2018年のコスチューム紹介も
オールカラーで掲載。
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色んな世界の人のインタビューが見たいシリーズ
— すばら/読書者 (@subarashi_blog) June 1, 2022
得にスポーツは、実践的な考え方、メンタルの持ち方がとてもわかりやすく参考になる。
平野歩夢選手の静かな闘志。
「オレの先にライバルがいるなんて面白い。すぐに追いかけ、抜いてやる」
格好いい
左『GQ JAPAN』6月号
右 Two-Sideways 二刀流 pic.twitter.com/JAaXKuDsEk